地元からの発信パート2・あなたから始まるバリアフリー

村田さんのステージ全景 村田知己 CJFいわて実行委員長

村田さんの写真 皆さん、こんにちは。お疲れさまです。実行委員長の村田知己と申します。連日このようにたくさん集まっていただいて、誠にありがとうございました。
 あっ、注意をしなければなりませんでした。目の前にいらっしゃる方々(パソコン要約筆記者)が、私の言葉をスクリーンに同時に要約して出してくださっています。ゆっくりとわかりやすい言葉でお話したいと思います。
 さて、10分ちょっとですけれども、お話をさせていただきいと思っています。
 物事には役に立つ知識や知恵があります。その他に、その人の生き方そのものが役に立つ場合があります。これを英語で「ロールモデル」といいます。転がるという意味のロールではなくて、役割という意味のロール。ROLEと書きます。「生き方の手本」といった意味です。
 今日そして昨日と集まってくださったパネラーやチャレンジドの皆さんからいろいろなロールモデルを受け取ってください。東大法学部に行くのがいいのか、家出をするのがいいのか、いろんな選択肢がある。要は、その人の個性を磨いていって社会貢献することだと、ぼくは感じました。
 ここに出られている方々は無報酬で集まってくださっています。各分野に秀でた方々です。その秀でたものを社会に貢献しようとしている方々です。社会をいい方向に導こうとしている人たちです。
 お一人お一人と会ってみて、ぼくが「そうだなぁ」と思うのは、皆さんが「いい人たち」だということです。一芸に秀でているかもしれないけど、その他の分野では一人の人間として、とてもいい人。優れた人というのは共通にそうなのかなぁと思っています。そして、そこでぼくが感じていることは、お一人お一人が人を励ます存在であるということです。ぜひ私達は見習いたいと思います。
 ぼくの好きな言葉に、「It's up to you.」短くして「Up to you.」という言葉があります。「あなた次第」という意味です。何か話していて最後にぽつっと、「 Up to you. / It's up to you.」というと、おまえ次第、あなた次第だよ、という意味です。この「Up to you.」という言葉が、ぼくの好きなキーワードです。
 ぼくはこの通り、小さな体で背が低い。そして、松葉杖を使っていますけれども、中学まで歩いたことがほとんどありません。寝たきりの生活をしました。そして、学校に行くことも難しかった。小学校からは来なくていいという通知が来た。両親は困って、父親がニューヨークに本社があったパン・アメリカン航空で仕事をしておりました関係で、ぼくをアメリカ人の学校に連れて行ってくれました。籍はありません。遊びに連れて行ってくれました。
 そこでぼくが教わった最初のことは、先生が「あなたが羨ましい」と言うことでした。「あなたが羨ましい」。ぼくはその意味がまるっきりわからなかった。なぜ、わからなかったか。
 ぼくは横浜で生まれました。そして、母の郷里である岩手に来たときに、いくつかの事件が起きました。両親は僕を障害を持った子どもとしては育てなかった。4、5歳の頃に岩手に来て、ある駅に降りました。当然ぼくは歩けないので、母に抱かれて降り立ちました。
 そうしたら、ぼくと同じくらいの子どもを連れた若いお母さんが、駅の改札口を出たところで、じっとぼくたち親子を見つめていました。そして、ぼくたちに聞こえないように、小さな声でこう言いました。
 「見てごらん。おまえも悪いことをすると、ああいう子どもになるんだよ」
 ぼくは思わず抱かれている母に向かって、「悪い子って、ぼくのこと?」と聞きました。母は結婚するまで教員をしておりました。しかし、ぼくが生まれたことで辞めてしまった。
 明るくて、物知りで、優しい母でした。しかし、「悪い子ってぼくのこと?」と聞いた時、母は一言も言葉を発せず、目にいっぱい涙をためていました。
 問題は何でしょうか。個人のせいにすれば簡単かもしれません。しかし、問題はその背景にある無意識の偏見と差別の意識であります。物を知らないということが、これほど恐ろしいことかと、幼心に思ったものでした。
 ぼくは悪い子なんだ。この世の中に役に立たないんだ。そんなズタズタの気持ちになって、岩手と横浜を往復しておりました。
 そうしたときに、日本の学校が受け入れてくれなかったために遊びに行っていたアメリカンスクールで、まったく反対のことを言われたのです。先生は「あなたが羨ましい」と、おっしゃいました。
 アメリカはご存知の通り、キリスト教の国です。神様を信じています。みんな神様の子どもなんです。だけど、神様は、その内のある人をピックアップして、特別なプレゼントをしたと言うんです。それがハンディキャップだと言うんです。なぜ?周りの人に、多くの人に、大事なことを気づいてもらい、考えてもらうためと、その先生はおっしゃいました。
 そして、ぼくが生き直した時期があります。ぼくは、前は人の前に立たなかった。ほとんど自分の考えも言わなかった時期があります。それを、まったく180度変えた。それは、フィリピンのマニラに行って、国際ボランティアに身を投じた時であります。昨日お話にあった盛岡市民福祉バンクが国際交流事業として展開した、フィリピンの子どもたちを支援する事業の一端を担った時でありました。
 フィリピンの学校に行って、ビックリしました。スローガンが書いてあるんです。何と書いてあったかというと、「障害を持つ人は先生だ」と書いてある。で、よく見ますと、「障害を持つ人は、愛するとはどういうことかを教えてくださる先生だ」と書いてあるんです。ビックリしました。
 フィリピンもキリスト教、カトリックの国であります。なるほどと思いました。つまり、神様はある人を選び、そしてハンディキャップという特別のプレゼントをした。それが挑戦すること、挑戦する課題というプレゼントであります。それを多くの人に伝え励ます義務があると思いました。
 ぼくは、ぼくにしかできないこと、ぼくのオリジナルというものを追求したいと思っています。養護学校や、今までぼくがお世話になった学校の多くでは、「普通のようになりなさい」と教わりました。病院でもそうです。「できれば松葉杖を外して、二本足で、片足をひきながらでも歩きなさい」と。
 でも、今、ぼくはそうだろうかと思っています。普通って、いったい何だと思っています。普通じゃなくていいんじゃないかと思っています。先ほどのパネラーの方のように、いろんな人生があっていいのではないかと、今日改めて思いました。
 人は同じ欲求を持っています。家族と暮らしたい。学校へ行きたい。仕事をしたい。豊かな人生を過ごしたい。誰もが、安心して幸せに生きたいという基本的な願いを持っています。もし、その当たり前の願いが叶えられないとするならば、それは社会全体の問題であります。と同時に、私たち達自身の問題だと思います。
 ぼくがアメリカンスクールで、もう一つ教わった大事なことがあります。それは、「同じところをできるだけ早く見つけて、早く友だちになりなさい」という指導でした。違うところを見るのではなく、同じところを先に探す。そして友だちになっていく。多民族国家のアメリカ合衆国ならではのことかなぁと思っておりましたら、今、その教えがとても役に立っています。
聴衆の写真  街を見回せば、確かに多くの問題があります。移動のバリアもあります。救いを求めている人に、素直に手を差し伸べることができない心の弱さもあります。しかし、ここに集まっている皆さんは、それが問題であるということも、おわかりになっていらっしゃいます。私たちは、問題を目の前にして、「とてもできない」とため息をつくよりも、「どうすればできるのか」、そのことに挑戦していきたいのです。
 最初の挨拶で申し上げました。私はできないことに興味はありません、できることに興味があります。隣の人と同じであることに、あまり興味はありません。隣の人と違うところに、私は興味があります。
 誰もが生きる喜びを、誇りを持って生きて、そしてやがて静かに目を閉じて神様の国に旅立っていく。生きていて良かったと思って、私も目を閉じたいと思っています。
 前の自分はこう考えていました。過ぎてしまった5分前のことを悔やみました。まだ来ない5分後のことを、私は心配しました。そして、自分がなぜ障害者なのかということで、思い悩み、苦しみ、迷路にはまってしまったのです。
 過去の自分と今がどう違うかというと、5分前に戻ることも、5分後に行くこともできない。それは、私も皆さんも同じであります。しかし、私は何もできない存在ではない。何ができるかっていうと、「今」という時間を、瞬間を、私の判断で、私の考えで、私の行動で生きることであります。その、「今」という瞬間をつなげていけばいいんじゃないかと考えました。そしたら、目を閉じるときに少しは後悔が少ないんじゃないかと思いました。
 ぼくは、これからも一生懸命、今を生きていきます。そして、無意識の偏見や差別、そういうものをことごとく蹴飛ばしていきたいと思っています。
村田さん講演中の写真  バリアフリーは、できたものを壊すエネルギーとコストがかかります。そして、もう一度作り直すコストとエネルギーがかかります。ならば初めからバリアなんかなければいいじゃないですか。それが、ユニバーサルデザインの考え方です。
 バリアフリーからユニバーサルデザインへ大きく社会を転換し、ぼくたちが便利な社会が多くの人たちにも便利だということを再確認して、この岩手を、盛岡を、イーハトーブに近づけたいと思っています。そのスタートに、このフォーラムをしたいと思っています。
 ぼくは、すべてのことは一人から始まると思っています。つまり、「It's up to you. 」あなた次第だと思うのです。
 皆さんのお一人お一人のこれからの幸せとご活躍をお祈りしています。ありがとうございました。